ECサイト「京都手帖」にて、数量限定販売中の「花蒔絵手鏡(木製漆塗)」。
20年目を記念してオリジナルデザインで製作した、編集部にとっても思い入れの強い一品です。
職人の手仕事が産むその魅力を、商品化に至るまでの苦節や、実際の制作風景の動画などを交えながらご紹介します。
オリジナルデザインでの製作に、四苦八苦…。
勾玉のような、独特な形をしている花蒔絵手鏡。
手鏡としてはやや大きめのサイズ感です。
あしらわれている蒔絵も、和の淑やかさとエキゾチックの魅力が融合したような、他にない雰囲気。
手鏡の製作にあたり、はじめに編集部が頭を悩ませたのが、この「蒔絵のモチーフを何にするか」という点でした。
伝統の図柄などを参考にしながら、京都ゆかりの風景や建造物、果ては干支など、いろいろな案が浮かんでは、どれもしっくりこないと、手探りでこれぞというものを探す日々…。
紆余曲折を経てようやく「花」という大枠が決まったものの、今度は「どの花にするか」という部分で、またしてもさまざまな意見が飛び交います。
華やかな菊や牡丹、京都府のシンボル花である枝垂れ桜など、美しい花々の中から一つを選ぶのはなかなかの難題。
同時に手鏡自体の形も、「オーソドックスな丸型のほうが」「手に馴染む勾玉型のほうが」と、編集部内でもさまざまな意見が飛び交いました。



決め手は「他にないもの」をという思い
多くの案が出るなか、決め手になったのは「せっかく京都手帖で買ってもらうなら、他ではあまりないものにしたい」という思い。
編集部の中でこの方向性が決まったことで、この特徴的な勾玉型での製作が決まったのです。
難航していた図柄決めも「他にないもの」を意識し、伝統的な大柄ではなく、淑やかで繊細な魅力を持つ小柄の花模様へと、自然に方向性が決まっていきました。

職人の手仕事が産む魅力
手鏡の製作にあたり協力してくれたのは、東山区の老舗漆屋・大西漆器店と、京都在住の蒔絵師・佐藤志乃さん。
佐藤さんは、一度社会人を経験した後に漆職人を志し、京都伝統工芸大学を卒業。その後、京都の町で蒔絵や漆器制作などの活動を行っています。
花蒔絵手鏡(木製漆塗)は、そんな佐藤さんの手で、ひとつひとつ丁寧に製作されています。
スケジュール帳『京都手帖2026』の編集終了後、編集部で御礼とご報告を兼ねて工房へ伺い、その制作風景を見学させていただきました。
お邪魔したのは、一見、至って普通の民家。土間と畳が古き良き日本の暮らしを想起させる、落ち着く空間です。
しかし、襖を一枚開くと、そこにあったのは確かに職人が仕事をするための「工房」でした。
まず初めに目を惹いたのは、壁際に置かれた、木製の大きな棚のようなもの。
「室(むろ)」と呼ばれるこれが、漆器の製作には必要不可欠な設備だと言います。
漆は、酵素のメカニズムによって固まります。水分を多く含むからこそ生まれる、他にないしっとりとした手触りが魅力。
半面、温度や湿度などの細かな管理が求められる、非常に繊細な素材でもあります。乾燥中に管理を怠ると、縮んでシワになったり、乾かなくなったりしてしまうのだとか。
そこで、この室へ入れることで温湿度を管理しやすくし、同時に、ほこりなどが表面に付着しないようにしているのです。
とはいえ、室に入れさえすればよいということもなく、人の手による細かな温湿度の調整が必須。佐藤さんの場合は、室の中に濡れ布巾を入れるなどして湿度の管理を行っているそうです。


古民家の一室に、所狭しと置かれた道具たち。製作と生活が融合したようなその風景のなかに、職人の手仕事が「あたたかい」と言われる理由のひとつを感じたような気がしました。
繊細な筆致で生み出される蒔絵。ひとつひとつが異なる魅力を持つ「一点もの」。
実際に手鏡に蒔絵を施している様子も見学させていただきました。
およそ12×8cmという小さな空間に、鮮やかな蒔絵が施されていくさまは見事というほかありません。
「大きく豪華な花よりも、道に咲く野花の美しさに惹かれる」と語る佐藤さん。
その思いは、「京都」という町の魅力にもマッチしているように思えました。

寛政元(1789)年創業の漆器店。京漆器を中心に地方の漆器や茶道具小物などを販売するほか、オーダーメイド商品の製作も手掛ける。『京都手帖2026』ではコラムにも掲載。
千葉県出身。京都伝統工芸大学校漆工芸科卒業。京都市内の漆店の漆工業務に従事するかたわら、個人で職人としても活動中。蒔絵や漆器制作をはじめとして漆を使った様々な仕事に取り組む。

